藤木伝四郎商店

    樺細工の歴史を次世代へ
    創業170余年
    「藤木伝四郎商店」の挑戦

     

    伝統と革新を併せ持つ老舗

    国の伝統的工芸品に指定されている「樺細工(かばざいく)」。「樺」と呼ばれる山桜の樹皮を用いて製品をつくる技術は、日本では唯一、秋田県仙北市角館町でのみ受け継がれています。

    同地域では、江戸時代、下級武士の内職として始まったとされ、当地を治めた佐竹北家に仕えた武士・藤村彦六が、秋田県北部の山間地域に伝わる技法を学び、広めたと伝わります。

     

    北国の寒い環境でゆっくりと育つ樺が、良質で適しているといわれています。

    樺は、生育環境により色や質感が異なるため、ひとつとして同じものがないのも樺細工の特徴。削ると金色や銀色に光るものもあり、個々の特徴を活かして職人は製品を生み出します。

     

    製品にはおもに、ざらざらとした原皮の質感を活かす「霜降皮」(右上)、原皮を削り、磨いた「無地皮」(下)、皮を剥がした立木から6〜7年後に再生した皮を削り使う「二度皮」(左上)が採用されます。

    角館駅から徒歩10分の場所に店を構える「藤木伝四郎商店」の創業は1851年。地場産品問屋としてスタートし、1879年、2代目伝四郎が樺細工を主とした小売業を始めました。当時から万博に出展するなど、海外にも積極的に進出し、樺細工の知名度アップに貢献してきた老舗です。

     

    桜の名所でも知られる角館。店を守るようにそびえるヤエベニシダレは、春には美しいピンクに色づきます

    店内には、江戸末期の内蔵を改装したスペースがあり、数々の製品を手にとって見ることができます。

    1976年(昭和51)年には、メーカーとしても始動。2010年には「角館 伝四郎」ブランドを発表し、伝統を守りながらも、新たな素材や製法によるものづくりにも積極的に取り組んで来ました。

     

    写真は、昔ながらのスタンダードな「基筒(きづつ)」。つまみを取り除き、内蓋を茶匙として使うことができる「素筒(すづつ)」は、同社のオリジナルで、東北スタンダードマーケットでも販売しています。

    「輪筒(わづつ)が、“新しい”茶筒の先駆けになった製品ではないでしょうか。当時は斬新な取組でしたが、このシリーズが評価されたことで、新しいスタイルへの挑戦ができるようになったと思います」

    そう話すのは、代表取締役の三沢知子さん。

    内筒と外筒で構成されている茶筒は、両筒の表面に樺を張るのが従来の製品でした。ところが輪筒では、樺のほか、外筒を輪切りにした桜、楓、くるみと、違う種類の木を組み合わせて製品化します。

     

    奥が内筒。手前が輪切りにした外筒。木の種類や個体により皮の厚さは異なるため、ぴったりと組み合わせることができたのは、職人の技術があってこそ。 写真提供:藤木伝四郎商店

    輪筒シリーズには、「4色」(16,500円)と「3色」(13,200円)の「茶筒」のほか、角砂糖入れやアクセサリー入れとして使える「2色」の「菓子入れ」(6,600円)があります。

    この開発を機に、蓋と身の間から、樺が帯のように見える「帯筒(おびづつ)」、葉の形をした「葉枝おき(はしおき)」など、現代のライフスタイルに合わせた新商品を次々と生み出してきました。

     

    「大」(容量150g)と「平」(容量100g)があり、木の種類やカラーのバリエーションが多い帯筒。写真は東北スタンダードマーケットで販売する「かえで」、「くるみ」、「さくら」、「しだれ」の平(各13,200円)

    こうした“新しい”スタイルの製品に着手したのは、六代目伝四郎で、三沢さんの実兄・藤木浩一さんでしたが、2015年に急逝。三沢さんは兄の想いを引き継ぎ、2018年に七代目伝四郎に就任します。

    「突然のことでしたので、とにかく職人の元へ足を運んで、コミュニケーションをとりながら、教えてもらいながら、関係を築いてきました」

     

    子育てが落ち着き、2013年に家業を手伝うようになったという三沢さん。

    樺細工屋の娘に生まれ育ち、あまりにも身近すぎる存在だったという樺細工。幼少期は特別なものとは感じていなかったと言いますが、名工の作品をはじめ、実際に製品を手に取り、間近に見るようになると、その美しさに魅せられていきます。

    「なんて素晴らしいんだろう……と見惚れてしまうんです。なんとかこの技術を残して行きたいと強く思うようになりました」

     

    伝統工芸士・米沢研吾さんに製作を依頼した「薬入」を愛用している三沢さん。無地皮(奥右)には小さなハサミを、霜降皮(手前)にはアクセサリーを入れています。左は、使い続けて35年という携帯茶筒。

    同社では、日用品としての樺細工だけではなく、非売品を含む芸術作品としての価値が高い樺細工を保有し、展示も行います。

    「歴代の名工の逸品をお手本に、職人に“作品”を仕事としてお願いすることで、モチベーションも上がりますし、彼らの生活を守ることができます。それが、技術を残し、産地を守ることにつながると考えているんです」と三沢さん。

    名工の作品を見に同店を訪れる職人もいるそうで、「向上心のある若手伝統工芸士が育っていることがとてもうれしいです。希望がもてますよね」と目を輝かせます。

     

    名工・田口芳朗さんの作品。様々な表情の樺を貼り合わせたもので、玉虫色の姿にうっとりとさせられます

     

    あるものに命を吹き込む

    2020年には、「重皮(えがわ)」シリーズを発表。樺と牛本革を重ね合わせる製法で、名刺入れ、長財布、小銭入れをリリースしました。樺には抗菌作用があり、触れていると艶も出てくるため革小物にも好適。実は先代が立ち上げ、廃盤になっていたシリーズでしたが、その原因を探り、解決することで再デビューさせました。

     

    「しだれ」、「ぶけやしき」、「あわゆき」と、角館の情景を表したラインナップに、栃木レザーを使用した「こうよう」(左)が新たに加わりました(11,000円〜19,800円)

    「代を継いで以来、一から生み出したものもありますが、私の場合は、父や兄がつくった製品を改良して世に出すことも多いです。せっかく時間をかけて開発した商品ですので、もう一度表舞台に出してあげたいという気持ちが強いんですよね」と三沢さん。

    「キャニスターコーン」も、「二段小物入れ」も、リメイクしたことで人気商品に生まれ変わったものだそう。

     

    カラフルだった蓋を、身と同じシンプルな樺にしたキャニスターコーン(22,000円)。容量240gでコーヒー豆入れとして最適です。

    父が考案した形をベースに、内側をフェルト張りから樺張りへ変更した二段小物入れ(11,000円)。用途が広がるとともに、縁もずれない形状に改良しました。

    もちろん、新しい試みにも積極的。異業種とのコラボレーションにも取り組み、ライトベースや現代仏具、同じく国の伝統的工芸品に指定されている「川連漆器」を取り入れた製品なども発表してきました。

     

    潟上市の「進藤電気設計」とつくったライトベース(maruは9,350円〜9,900円)。ガラスに限らず、ホオズキなど、光を通すものを置くと美しい光を見せてくれます。

     

    樺細工の技術を次世代へ

    2021年には創業170周年を迎え、「Tray Origin」を製作します。お客様への心からの感謝の気持ちをのせ、同社工場の原点である木地もの技法で開発されました。

     

    木地もの「相板 パン長手皿」を製作する様子。高音で熱した金コテを使い、木地に樺を接着していきます。

    熱した金コテを水につける音で、職人は接着する適温を判断するそう。

    「型もの」、「木地もの」、「たたみもの」の3つ技法によりつくられている樺細工。茶筒や薬入などは型もので、おもにイタヤカエデの木でつくられた型をベースに製作します。職人のアイデアで製作されるものと、問屋からオーダーし相談しながらつくるものとがあるそう。

    何十枚もの樺を重ね、ブロック状にした後に成型するたたみものの手法では、透明感や奥行きのあるアクセサリーなどがつくられます。

    Tray originをベースに、Growth(グロース)シリーズも発表。キャッシュトレイやアクセサリートレイ、お盆やお皿など、アイデア次第でさまざまな用途に使うことができる樺細工の楽しさを教えてくれる商品です。

     

    「Plate Growth」S(4,950円)、M(5,500円)、L(8,250円)。「笹の葉を敷いてお寿司を出しても素敵ですよ」と三沢さん。

    最新作のテーマは、「時を紡ぐ」。「樺細工の歴史を次世代へつなぐ」という想いから、文字盤を角で表した『12角時計』と『12角盆』、経年変化を楽しめる真鍮と樺をコラボレーションさせた『金筒』を発売しました。

    「お客様と一緒に時を重ねていきたいという想いを込めた製品です」

     

    富山県の老舗鋳物メーカー「能作」が仕立てた真鍮を使用した金筒(22,000円)

    同社には修理の依頼も多く、何十年も使ったもの、両親や祖父母から受け継いだものを大切にしたいという想いをこれまでもつないできました。

    「ひとつひとつのもの、人それぞれに歴史がありますし、樺細工は、使っていくと艶と深みが増していきますので、新品では代え難いものがあります。高級なものだからとしまい込まずに、どんどん普段使いをしてほしいです。手で触れることで育っていきますので、お使いいただくことが一番のお手入れ方法ですよ」。

     

    三沢さんの父が愛用していた形をもとに、新たに製作を依頼した名刺入れ(左)と、兄が使っていたメジャー(右)。いつも持ち歩いているお守りで、深みのある色に育っています。

    店から車で10分ほどの場所にある自社工場(雲沢工場)を案内してくれた際、「晴れると奥羽山脈を望める、とても素晴らしい場所なんです。こうしたのどかな環境の中で、当社の木地ものはつくられています。この景色を眺めながら、兄はデザイナーと会議をしたり、お弁当を食べたりしていたんですよ」と三沢さん。続けて、今の想いを話してくれました。

     

    父である五代目伝四郎が設立した雲沢工場。

    あいにく奥羽山脈は雲に隠れてしまっていましたが、美しい水田を望めました。

    「異性の兄妹ですので、密にコミュニケーションをとっていたわけではなかったのですが、私が伝四郎に入ってから、兄が亡くなるまでの2年半は、ずっと彼の背中を見てきました。彼の夢も聞いていましたし、ついて行きたいと思っていたので、せっかくこうして撒いてくれたタネを、できるだけ次の世代に渡して行きたいという想いです。新商品もつくりますが、『不易流行』の精神でバランスを取りながら、繋いでいきたいと思っています」

     

    時を経て、確かに受け継がれている想い。技術とともに守られていく産地の未来が想像できる時間でした。使うほどに愛着が増していく樺細工。普段使いしたいお気に入りを見つけて、日々育ててみてはいかがでしょうか。

    取材:佐藤春菜

      <藤木伝四郎商店>
    住所:秋田県仙北市角館町下新町45
    TEL:0187-54-1151
    営業時間:10:00~17:00
    定休日:水曜(祝日の場合は翌日)
    Web:https://denshiro.jp/
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