【南部鉄瓶紅蓮堂】 使う人のために黒子に徹する鉄瓶職人。
岩手県盛岡市内の鉄瓶工房「紅蓮堂(ぐれんどう)」は、2015年に設立された、職人の葛巻元(くずまきげん)さんがおひとりで鉄瓶を製造している工房です。
作品ではなく日常の道具としての鉄瓶の在り方が理想だと、葛巻さんは語ります。例えば、蓋のつまみには、「虫喰い」と呼ばれる小さな穴空きが施されておりますが、この穴空きがあることで、鉄瓶が熱くなりすぎず、火傷がしづらくなっています。使う人への思いやりから生まれた工夫なのだそうです。
基本的に、一度世の中に出したら鉄瓶の形を変えることがないという紅蓮堂の鉄瓶。
しかし、同じ形を作り続ける中でも、どうしても気に入らない箇所があれば、販売店や使い手に気付かれない程度に修正を重ね、少しづつ少しづつ良くしていくのだとか。
新商品が出ては消えていく今の市場の中で、それに逆行するものづくりの姿勢と見えない配慮は、黒子の職人そのもののようです。
一ヶ月に生まれる数は、たったの20個。
「仕上がりに厳しく、使う人に優しく」を貫いて鉄瓶を生み出している紅蓮堂。
それゆえ、1ヶ月に世に出せる数は、たったの20個程度だといいます。
鉄器・鉄瓶は総称して「鋳物(いもの)」と呼ばれます。鉄器の作り方の前提として、金属を溶かし、型に入れて固めて形にしていきます。
鋳物は大きく分けて「型作り」→「金属の流し込み(鋳込み・いこみ)」→「仕上げ」の3ステップで製造され、工房の中では、型作りや仕上げといった緻密な作業がメインとなります。
工房内には、「中子」と呼ばれる土でできた黒い型が並んでいました。型作りの工程では、金属を流し入れる下準備のために、外型と中子、そして注ぎ口をパーツごとに土で作ります。中子は粘土のようにもろくできていて、鉄が固まったあとに崩して捨ててしまうパーツです。
この中子は鉄瓶を作るたびに1個ずつ犠牲になってしまいます。しかも、中子の形に歪みがあると、完成する鉄瓶の形にも歪みが出るので、手を抜くことはできません。
この緻密な作業は、職人歴15年の葛巻さんであっても、神経をすり減らすものなのだそうです。
使う人が主役だからこそ。
そんな"重たい石をコツコツと積み上げる"ような、気の遠くなる仕事を担う鉄瓶職人の想いは、「あくまで使う人が主役」であること。
それは鉄瓶が沸かす濁りのないお湯のように、透き通ってあたたかな視点に思えました。
南部鉄瓶紅蓮堂について
2005年〜2015年まで盛岡市の『虎山工房』に務め、三代目虎山・前田知行に師事。2015年から独立し営む鉄瓶工房です。2016年から2019年まで、4回に渡って「日本民藝館展」に入選・奨励賞を受賞。これからの活躍が期待される工房です。
技術・素材について
紅蓮堂の南部鉄瓶は、直接火にかけて、お湯を沸かす用途にお使いください。
*急須ではございませんので、お茶を煮出すと黒く変色する可能性があります。
内側の鉄がむき出しになっているため、お湯を沸かすと鉄分が溶けだします。鉄瓶を使って沸かしたお湯に含まれる鉄分の量は、ステンレスのヤカンと比べると数十倍にもなります。毎日の使用で、自然と鉄分が補われます。
使い込むことによってサビが出ますが、水道水のカルキなどを鉄瓶が吸収するためですので、ご安心ください。鉄瓶が雑味を取りのぞき、美味しいお湯をつくります。