紅蓮堂の南部鉄瓶
紅蓮堂の南部鉄瓶
たとえば、寒い日の朝。
目覚ましがわりに
コーヒーを一杯飲もうだなんて、
そんなとき。
私たちが手に取るのは、
やかんにケトルに、ウォーターサーバー。
手頃で便利な道具が生みだされては、
流行とともに消えていく現代。
気づけば、大量生産の道具と同じように、
わたしたちも、忙しい日々を
送っているのではないでしょうか。
そんな中、1ヶ月に20個ほどしか作れない、
丁寧に丁寧に作られた
鉄瓶(てつびん)があります。
その作り手は、岩手県盛岡市にある
【南部鉄瓶 紅蓮堂】の
葛巻元(くずまき げん)さんです。
葛巻さんの鉄瓶は、
とてもやわらかく、
優しいフォルムを描きます。
丸みを帯びたこの形に仕上がるまで、
自分自身が納得するまで
磨きあげるのだそうです。
「使う人がストレスのないように」
と、鉄瓶を手に取る人への
見えない配慮を大切にする葛巻さんの姿は、
まるで<黒子の職人>のよう。
仕上がりに厳しく、使う人に優しく。
そんな使い手への配慮から生まれた鉄瓶には、
いくつもの工夫がほどこされていました。
紅蓮堂のこだわりその1
暮らしに溶け込むフォルム
数ある南部鉄瓶の中でも、
なめらかな「丸み」が紅蓮堂のこだわり。
ふっくらとした形は、
インテリアを邪魔せず馴染みます。
鉄瓶づくりの工程では、
手作業で作った「砂型」に
熱で溶かした鉄を流し込みます。
まるで綺麗な泥だんごを作るように、
このフォルムが生まれていきます。
紅蓮堂のこだわりその2
熱くなりにくいツマミ
鉄瓶でお湯を沸かす上で、
一番熱くなるのは実は「ツマミ」なんです。
鉄瓶は、使い終わったら
熱いうちにフタを開けて乾かすのがコツ。
湯気をうけてアツアツになった蓋を、
素手でもつのは一苦労…。
そんなストレスにこたえるように、
紅蓮堂の一部のモデルのツマミには
<虫喰い>と呼ばれる穴が空いています。
古い南部鉄瓶には使われていた技術ですが、
手間がかかるため、
現在あまり使われなくなった<虫喰い>を
惜しむことなく再現しています。
紅蓮堂のこだわりその3
水切れのよい薄口
今の時代に鉄瓶を使うとなれば、
どんな風に使うでしょうか?
白湯を飲むためだけの鉄瓶。
煎茶を飲むためだけの鉄瓶。
なんとなく、そんな限定的な使い方の
イメージを持つ人が大多数だと思います。
実は、紅蓮堂の鉄瓶は薄口なので、
コーヒーのドリップも大丈夫。
煎茶碗のような広口の器でなくとも、
今お使いのマグカップにそのまま注げます。
粉末の昆布茶やコーンスープなど、
気兼ねなくお使いください。
こうして手間暇をかけて
作られた鉄瓶を使うことは、
体にいいだけではなく、
心が喜ぶように思えませんか。
自分自身へのちょっとしたご褒美や、
日々の疲れを癒やすために。
リラックス、
リフレッシュタイムのお供として、
「お湯を沸かす」。
たったそれだけで、
からだと心を整えてくれる。
暮らしの中に
ぜひ取り入れてみてほしい道具たちです。
葛巻 元|Gen Kuzumaki
1978年 盛岡市に生まれる
2005年 南部鉄器販売株式会社 虎山工房入社
三代目虎山 前田知行に師事
2015年 虎山工房退職
独立して南部鉄瓶 紅蓮堂を設立
受賞歴
2016年 日本民藝館展 入選(月光小)
2017年 日本民藝館展 奨励賞受賞(日和)
2018年 日本民藝館展 入選
(布団形かすみ大・布団形環文大)
2019年 日本民藝館展 奨励賞受賞(ひびき大)
2021年 日本民藝館展 入選(ひびき小)
実際に紅蓮堂の鉄瓶を使用してコーヒーを淹れてみました。紅蓮堂の鉄瓶は注ぎ口が薄いため、細くお湯を注ぐことができるのでコーヒーのドリップにもぴったりです。
鉄瓶はじめの方へ
そもそも、南部鉄瓶とは?
伝統工芸品・南部鉄器は、江戸時代初期に茶の湯が流行していたことから、南部藩の藩主が茶の湯釜をつくらせたことがきっかけで製造がさかんになります。江戸時代中期には片手でもお湯を注げるようにと、当時からあった茶釜を小ぶりにし、注ぎ口とつる(取っ手)をつけた「南部鉄瓶」が生まれ、その後鉄瓶は茶釜に代わって多くの人に普及していきました。
南部鉄瓶の良いところ
01 鉄分を摂取できる
鉄瓶は、内側の鉄がむき出しになっており、お湯を沸かすと鉄分が溶けだします。鉄瓶を使って沸かしたお湯に含まれる鉄分の量は、ステンレスのヤカンの数十倍。そのため毎日鉄瓶を使うことで、自然と鉄分が補われていくのです。
02 おいしいお湯を楽しめる
鉄製のため蓄熱性に優れ、温度が下がりにくい鉄瓶。内側の鉄が水道水のカルキなどの雑味を取りのぞいてくれるため、やわらかく、まろやかな美味しいお湯を楽しむことができます。
03 一生モノの道具になる
丈夫な鉄瓶は、使いこむほどに鋳鉄がしっとりとした風合いとなり、経年変化をお楽しみいただけるまさに一生モノの道具です。大量生産が当たり前となったこの時代に、使えば使うほど風合いが変わっていき自分だけの道具としての愛着もわきます。
【使い方のコツ】
①鉄瓶の中は手で触らないでください。
②お湯は出し切り使用後は蓋を開けて乾かす。
③簡単なお手入れをするならパッティングを。
南部鉄瓶はお手入れが難しい、そんな印象をお持ちの方も多いかもしれませんが、この3つのポイントをおさえて使っていただければ毎日の鉄瓶生活を簡単に楽しむことができます。
01
まずは水を入れて、お湯をわかします。水は水道水で構いません。また、商品によってはIH調理器の使用も可能です。
02
蓋をしめていると、持ち手はそこまで高温にはなりませんが、蓋のつまみは特に高温になりやすいため火傷にはくれぐれもご注意ください。
※お湯をカップにいれるときは、鍋つかみや布巾などを使い蓋が落ちないようにおさえると火傷の防止になります。
03
余ったお湯は全て出し切ってください。タンブラーなどにとっておくと、
いつでもあたたかいお湯を楽しめるのでおすすめです。
04
使い終わるたびに水気をしっかり取ることが表面のつやを維持するポイント!使い終わったら蓋を開けて置いておくだけで、鉄瓶の予熱で中までしっかり乾きます。
05
お時間に余裕のある方は簡単なお手入れとして、鉄瓶が予熱であたたかいうちに表面をぽんぽんと軽く叩きパッティングする方法があります。
緑茶をひたして絞った布巾や、ドリップ後のコーヒー粉のフィルターなどを使用すると、タンニンが鉄分と反応し鋳鉄がしっとりとした風合いとなり、経年変化をお楽しみいただけます。
※
鉄瓶は使用している間にどうしても錆びてきてしまいます。
内部が赤く錆びていても、お湯が赤くなったり、匂いや味に変化がなければ使用上問題はありません。
また、不具合がございましたら、
販売後時間が経っても職人にご相談いただけます。
●慣らし
①温水で中を軽くすすぐ。
②約8分目まで水を入れ、沸騰時の吹きこぼれを防ぐために、蓋はずらすか開けたまお湯をわかす。
※このとき、硬水を使用すると湯垢づけができます
③お湯を沸かしては捨て、沸かしては捨てを3回を目安に繰り返す。火傷にご注意ください。特に本体や蓋・弦部分は高温となります。 また、お湯を捨てるときは、はずれないように蓋を押さえてください。
④水が透明になったら完了です。
湯垢とは、水の中に含まれるカルシウム等の成分が結晶化したもののこと。硬水を沸かすことで、硬度の高い水に多く含まれるマグネシウムやカルシウムが、鉄瓶の内側に白い膜となって張り付きます。湯垢をつけることで、鉄瓶の内部は錆びにくくなります。
季節を問わずお使いいただけます。例えば、味噌汁など料理のベースのお湯にも、鉄瓶で沸かしたお湯をご利用いただけます。
水道水に含まれるカルキなどを取り除くことができるため、ペットボトルのミネラルウォーターなどの削減にも繋がることが期待できます。
紅蓮堂の鉄瓶は全てガスコンロ・直火に対応しておりますが、IH対応モデルは「日和・ひびき」の2種のみと表記しております。
実はIH機器との相性によって使用の可否が決まるため、場合によっては、IH対応と表記がない鉄瓶でも、使える場合がございます。
IH機器は、底が平らで広めの金属製の調理道具に反応して熱を生み出しますが、底面が小さめの「月光・布団形・うたかた」シリーズの場合、安全装置が作動して止まる場合がございます。
基本的には直火でのご使用を想定していただき、もしIHが使えたら便利と捉えていただけますと幸いです。
*キッチンビルトインのIHは出力が強く、鉄瓶の底が変形する場合がございます。弱火〜中火設定の火力でご使用ください