岩手県のものづくりと フィンランドデザインの融合。 チームで育むブランド【iwatemo】

岩手県のものづくりと フィンランドデザインの融合。 チームで育むブランド【iwatemo】

取材:佐藤春菜/写真提供:iwatemo

「ものづくりは地方にある」

ヨーロッパ北東部に位置するフィンランド。日本列島の本州北東部に位置し、本州最大の面積を誇る岩手県。

雪国・北国であることはもちろん、総面積の約70%以上を森林が占め、人の住む地域が限られていたり、ちょっとシャイな国民性・県民性をもっていたり? などなど、何か似ているところが多いと感じられるふたつの土地で、次々と縁が結ばれていったことで生まれたのが『iwatemo』。

フィンランドのデザイナーと、岩手の作り手・伝え手がともに育むブランドで、2019年に「鉄器」「椅子」「磁器」の3ライン・24アイテムを発表し、その活動をスタートしました。

「磁器」と「鉄器」のアイテムの一部。

デザインを手がけるのは、ハッリ・コスキネンさんと、ヴィッレ・コッコネンさん。ノキア、イッタラ、アルテック、イッセイ・ミヤケ、マリメッコ、無印良品など、名だたるブランドと仕事を重ねてきた、フィンランドの著名デザイナーです。

彼らと岩手の縁がなぜ結ばれたのか。そのきっかけは、iwatemoをプロデュースする〈株式会社モノラボン〉の代表・工藤昌代さんがフィンランドを訪れたことにはじまります。

ヴィッレ・コッコネンさん(左)と、ハッリ・コスキネンさん(右)。

ホームページの企画・制作を軸に、岩手県や東北の選りすぐった品々を発信・販売するウェブサイト『まがりや.net』、実店舗『5858(こやこや)』を運営する『株式会社ホップス』の代表でもある工藤さん。

地域とのつながりが深い彼女のもとには、東日本大震災後、「岩手のために何かしたい」という相談が国内外から多く寄せられたといいます。そのひとつが、知人で、フィンランドでも事業を行う〈オフィス結アジア〉の代表取締役高橋宜盟さんからの相談。工藤さんは高橋さんとフィンランドを訪問し、その際に、『JETRO』や『在フィンランド日本大使館』など、フィンランドでの事業展開の助けとなる関係者をたくさん紹介してもらう機会を得ました。

左がヴィッレさん、右がハッリさんデザインの鉄瓶「iron kettle」。大(42,240円)と小(27,280円)があり、佇まいが美しいことはもちろん、平らな設置面が広いため、特にIHでは湯が沸騰するのが早いそう。湯がまろやかになり鉄分も摂取できます。

完成までには80以上もの工程があるという鉄瓶。各工程を担うプロフェッショナルが連携し、複数の工房・工場の技術が合わさってつくられています。写真は「鋳込み」と呼ばれる鉄を型に流し込む工程。

「南部鉄器」は国の伝統的工芸品にも指定されている、岩手県を代表する工芸品です。写真は「バリ」と呼ばれる、製造の際にできるはみ出した部分を研磨して整えている様子。

この時の縁がつながり、翌年、ヘルシンキで、在フィンランド日本国大使館主催のイベントに参加することになった工藤さん。その渡航で幸運なことに出会ったのが、『ヘルシンキデザインウィーク』の総監督であるカリ・コルクマンさんでした。

「『ものづくりは地方にある』という考えをお互いもっていて、意気投合したんです。フィンランドでも日本と同じような問題を抱えていて、なんとなく首都・ヘルシンキが中心になっているように見えてしまっている。地方ではたくさんいいものづくりが行われているのに、そこに目がいかないのはフィンランドも一緒なんだ。昌代(工藤さん)が本気で岩手のものづくりを伝えたいと考えているなら、僕は手伝うよとカリさんが言ってくれました」(工藤さん)

工藤さんはカリさんを岩手へ招待し、『岩手県工業技術センター』やいくつもの工房を訪問。この縁をなんとか岩手のものづくりのために役立てようと奔走します。

ハッリさんデザインのボトル・カップセット「bottle&cup」。ボトルとカップ(中央)は、(左のように)重ねることができ、日本酒やお茶を入れたり、花器として利用したり、さまざまな用途に使えます。Sサイズ(中央)6,963円、Lサイズ(左)14,476 円。どれもろくろにより成型した手づくりの磁器です。

磁器のアイテムは、『陶來』の大沢和義さんがひとりで手がけています。シリーズのうち、「kobukura」、「kurawanka」、「temaru」は大沢さんのデザイン。もともと大沢さんが陶來としてつくっていた形がハッリさんとヴィッレさんに評価され、色だけを統一してiwatemoのラインナップに加わりました。

 

日本では北欧を、北欧では日本を感じるデザイン。

そうして2016年に実現したのが、岩手県工業技術センターによるフィンランドとの交流事業。岩手の職人やデザイナーらがフィンランドを訪問し、『フィンランドデザインウィーク』を視察したほか、自身の製品等のプレゼンテーションを現地デザイナーやメディアに対して行う「コンタクトフォーラム」を開催するなど、交流を深めていきます。

2016年の交流事業の様子。右から3人目がカリさん。

対して翌2017年には、岩手県にカリさんを招待し、県内事業者へのセミナー開催や、工房訪問を予定。しかし、カリさんの来日が叶わないことになり、「僕の代わりにフィンランドでトップクラスのデザイナーを送るから、ぜひ彼らの話を聞いてほしい」と派遣されたのがハッリさんとヴィッレさんでした。

ヴィッレさんデザインのスツール「stool - VK 」(39,600円)。座面と裏板、脚の木製パーツを分解することができ、取手付きの箱にコンパクトに収納できます。ネジを使用しない構造で、持ち運びにも便利です。素材はホワイトアッシュの無垢材。

iwatemoの椅子のアイテムは、ハッリさんがデザインする京都のホテル『MAJA HOTEL KYOTO(マヤ ホテル キョウト)』でも使用されています。写真は小屋をモチーフにした客室。梯子もハッリさんのデザインです。

MAJA HOTEL KYOTOでは、ロビーをはじめ、館内の各所にiwatemoの椅子のアイテムが設置されています。

もともと民藝に造詣が深かったというハッリさんとヴィッレさん。岩手県内の工房を訪問したのち、「岩手のプロダクトをまとめて、ひとつのブランドを立ち上げないか」という提案は、この時、ふたりから示されたものでした。

「チャンスだなと思いました。地方にある小さな工房は、世界に通用する技術をもっていても、海外展開のノウハウには乏しく、敷居が高いものです。何かしらの形にしたいと思って、参加したい工房を募集したんです。そこで手を挙げたのが、iwatemoのスタートに携わったメンバーです」(工藤さん)

2019年、Artek Tokyo Store での iwatemoローンチの際のスタッフ・関係者。1列目に座るのがハッリさんとヴィッレさん。右が工藤さん。

工藤さんの推進力のもとに集まった有志が、2018年に『株式会社モノラボン』を設立。運営は工藤さんとともに、グラフィックデザイナーの村上詩保さん、コピーライティングや企画を行う佐藤利智子さん、通訳の小原ナオ子さんという4人の女性が中心となり、プロジェクトへの参加を表明した『岩泉純木家具』(岩泉町)、陶來(滝沢市)、『三協金属』(一関市)という工房3社と共に試作が始まりました。

ハッリさんとヴィッレさんはすべての工房を何度も訪れ、職人と意見交換しながらデザインを決めていったといいます。

2019年Jacksons(ストックホルム)での展示の様子。

2019年、ローンチの会場は、スウェーデン・ストックホルムのギャラリー『Jacksons』。『ストックホルムデザインウィーク』の開催に合わせ展示を行い、その後、東京、ヘルシンキ、盛岡で展示会を開催しました。

日本の会場では「北欧を感じる」、北欧の会場では「日本を感じる」という感想を多くもらったというのは、iwatemoにとって理想だったと工藤さん。どちらの生活空間にも馴染む製品となったのはデザインの力だと考えます。

器から献立を考える楽しさも教えてくれるiwatemo。左上がハッリさんデザインの「jar(8,096円)」、中央がヴィッレさんデザインの「tray 」(上が M 16,090円,、下左がL 24,497円、下右がS 1,969円)、右がハッリさんデザインの「bottle & cup」(S 6,963円、L 14,476円)。

「食べないか」を意味する「kurawanka(くらわんか)」は、江戸時代、川を往来する大型船の客に飲食物をデリバリーする器の形が元になっているそう。船上でも安定するように高台が大きく広いのが特徴で、サイズによってスープやシリアル、丼料理、麺料理と、さまざまなものを受け止めてくれます。重ねても美しく、飾っておきたくなるのもまた、iwatemo製品の魅力です。


iwatemo boys & girlsチームでつくるブランド

岩手県の小さな工房をひとつのブランドとして束ね、フィンランドデザインを取り入れることで、各々では難しかった海外展開を実現したiwatemo。EU、中国、韓国、アメリカにおいても商標を取得しています。

自身の製品が世界で評価される経験は、職人の自信となったことはもちろん、取り組みの根本には、工芸の可能性を感じてもらい、担い手不足の解決につながってほしいという願いもあります。

これまで一枚板を削ってつくる大型家具が中心だった岩泉純朴家具にとって、椅子シリーズは新しい技術への挑戦でもありました。

また、トップデザイナーとの仕事でありながら、工房とデザイナー、つなぎ手・伝え手の間に、フラットで、尊重し合う関係があることも特徴的。

「ヴィッレさんとハッリさんは、自分たちや岩手の職人のことをiwatemo boys、私たちのことをiwatemo girlsと呼び、チームの一員として、ヨーロッパでの展示運営や関係づくりも積極的にサポートしてくれます。ただ依頼してデザインをしてもらっているのではなく、ファミリーのように活動しているのがiwatemoというブランドです」と工藤さんは話します。

製品について話し合うiwatemo boys と iwatemo girls。

製品のそのもののみならず、地方のものづくりと世界をダイレクトにつなげた、その「取り組み」が評価され、iwatemoは、『海外協働ものづくりプロジェクト/イワテモ』として、2020年度グッドデザイン賞も受賞しています。

今年(2023年)は、〈高松市美術館〉(香川県・4月15日〜6月11日)を皮切りに全国を巡回予定の展覧会『フィンランドのライフスタイル~暮らしを豊かにするデザイン~』で、アルヴァ・アアルトやカイ・フランクなど、著名なフィンランドのデザイナーによるプロダクトとともにiwatemoの製品が紹介される予定もあるそう。
日本とフィンランドの関わりの中で、“ひとつのブランド”として成立しているものがほかに例を見ないことが評価されたのだといいます。

大沢さんデザインの「temaru bowl」(S2,640円、M2,926円、L3,726円)は、縁にかえしがあり、力が弱い人や、乳幼児を抱っこするなど片手が塞がっていても、スプーンで食べ物をすくいやすい構造。カレー皿などとして使用できるプレート(5,709円)もあります。

さらに今後、「鉄器」「椅子」「磁器」というスタート時の3ラインに加えて、新たに「テキスタイル」の発売も計画しているそう。どんな工房とコラボし、どんな製品が生まれ、どこで発表されるのか、iwatemo boysとiwatemo girlsによる展開が楽しみです。

現在販売中のシリーズのうち、『東北スタンダードマーケット』では「鉄器」と「磁器」を販売しています。人気かつ生産数が限られているため品切れ中のものもありますが、「入荷のお知らせ」を受け取ることもできるので、ぜひチェックしてみてください。

iwatemo
会社名:株式会社モノラボン
住所:岩手県盛岡市本宮1−16−17
TEL:+81-50-5328-7990
Web:https://www.iwatemo.com/