【南部裂織kofu】 手織りのぬくもり、南部の裂き織り。

南部裂織(なんぶさきおり)は、八戸市を中心とした「南部地方」に伝わる工芸です。その伝承者である、『南部裂織工房「澄」』の井上澄子さんのご自宅を訪ねたときに、年代もののコタツがけを見せていただきました。

赤・緑・黄色が織り混ざり、タータンチェックのように配色されたコタツがけは、今見てもモダンなテキスタイルでした。その配色をもとに、日常使いしやすい小物として蘇らせたのが『南部裂織kofu』シリーズです。
力強く織り込まれた裂き織り(さきおり)はとても頑丈で、機械を使った量産品には生み出せない、手織りならではの"みっちり感"があります。使い続けることで風合いが増し、手に馴染んでいく変化を、味わってみてください。

もったいないが生み出した、アップサイクル。

南部裂織の歴史は、江戸時代までさかのぼります。青森の冷たい気候では綿の栽培が難しいため人々は麻布を着て過ごしましたが、風を通してしまう麻では寒さをしのぐのも一苦労でした。少しでもあたたかく日々を過ごせるようにと、人々はさまざまな工夫をこらします。そのひとつが、この南部裂織でした。
あたたかくて貴重な綿布を、着古したからといって捨ててしまうのはもったいないと、古布(こふ)を裂いて織り直すことで再利用することにしたのです。厚手でゴワゴワとした手触りの裂き織りは、肌を刺すような風が吹き付ける南部地方の気候と相性が良く、羽織やコタツがけとして使われてきました。

今では伝統工芸と呼ばれる南部裂織ですが、当時はそれぞれの家庭で、家族のためにつくられました。そのため、農業がお休みの冬場の女性の手仕事であったと言われています。家の古布が織り直されて新たな姿となり、丈夫であたたかい衣類やコタツ掛けとして子どもたちに受け継がれていたのでしょうか。南部裂織を知ることで、南部地方の暮らしとともにあったものづくりの歴史を覗くことができます。

八戸南部裂織工房「澄」について

『八戸南部裂織工房「澄」』は、青森県伝統工芸士の井上澄子(いのうえすみこ)さんが2005年に開業。2011年より八戸市ポータルミュージアム「はっち」ものづくりスタジオに入居し、ワークショップの開催や裂織製品の生産を行いながら、柔らかな地機織りにこだわった地域特有の伝統技法を後継者に伝えています。

技術・素材について

経糸(たていと)に木綿糸、緯糸(よこいと)に裂いた古布を織りこみ、衣服や生活用品など新たな織物として再生させる技術です。材料として裂く古布は、着物や大漁旗など、種類はさまざまです。
地機(じばた)という手織り機を使って、糸の張り具合を身体全体を使って調節しながら繊細に織り上げられた布は、目が詰まって丈夫な仕上がりに。
もともとは手で裂けるほどの古布が、新たな木綿糸と織りなされ、さらに丈夫なものとなり、長く、大事に使うことができる。南部裂織のモダンなテキスタイルが色あせないのは、ものを大事にするという、今でも変わらず誰もが持ち合わせている、その気持ちによるものなのかもしれません。

*地機(じばた):地面に座って、体全体で力を入れて織り上げる織り機。椅子に座って織るタイプの織り機よりも、目が詰まった布になります