イタヤ細工

    山の恵から生まれるイタヤ細工
    農具から工芸品へと変化させた
    秋田・角館「民芸イタヤ工房」


    農具から工芸品へ

    国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている「武家屋敷通り」で知られる秋田県仙北市・角館。実際に見学できる武家屋敷がいくつかあり、そのひとつ「松本家」では、「民芸イタヤ工房」の西宮麻巨(まみ)さん、田口呉羽(くれは)さん姉妹による「イタヤ細工」製作の様子を見学することができます。

    松本家は重要伝統的建造物群保存地区の外に位置しています。

    帯状に裂いたイタヤカエデの幹を編むことで生まれるイタヤ細工。その起源は記録に残っていませんが、角館町雲然(くもしかり)地区と呼ばれるエリアでは、かつて、穀物をふるう「箕(み)」や、「カッコベ」と呼ばれる腰に下げるかご、「おぼき」と呼ばれる丸かごなど、農具が主につくられていました。

    「文献が残っていないことからも、農家の副業として伝承されてきたものだと想像できますよね」と麻巨さん。「軽く、しなりやすいイタヤの箕は、使いやすいと重宝されたと聞いています」と話します。

    姉の西宮麻巨さん(右)と、妹の田口呉羽さん(左)。

    かつては20数軒もの家でつくられていたというイタヤ細工ですが、現在、販売等を行うのは、雲然地区では2軒のみ。安価なプラスチック製品の台頭や農業の機械化によって、農具としての需要はなくなってしまいました。

    そうした中、イタヤ細工の技術を活用し、新しい製品を生み出したのが、麻巨さんと呉羽さんの祖父である、菅原昭二さんでした。

    「カッコベに持ち手をつけてバッグにしたり、花器をつくってみたり、今に残る製品をつくり始めたのは爺さんだったと聞いています。その頃から全国の催事に出展して実演販売を行うようにもなりました」

    『東北スタンダードマーケット』でも人気の「手提げかご」(小・29,700円)。使っていると、だんだん丸みを帯びていくそう。霧吹きで水をかけ、分厚い本などを入れれば販売時の形に戻るそうですが、使い込んだぽってりさが多くの人に好まれています。

    農具として使われていた時代には、腰に背負って田植えをしたり、山菜採りをしたり、「汚れたら川の水でざぶざぶ、タワシでゴシゴシ洗っていた」というイタヤ細工。水に強く、お手入れにも困りません。

    「ガシガシ使って、たくさん触ると、柔らかくなり、ツヤツヤの飴色になっていきますよ。まっさらな色のものを、一から自分の色に育ててください」と麻巨さん。

    手提げかごやバッグは、使い始めは木肌に引っかかる可能性があるので、物入れとして使用したり、ジーンズなど仕事着に合わせて、ツヤツヤに育ってきたらおしゃれ着と持ち歩くのがおすすめだそう。

    飴色に変化したイタヤ細工。「盛皿 鉄線編み」(三色・7,150円)の37年物です。

    麻巨さんが裁縫道具入れとして愛用するあじろ編みの弁当箱。5年ほど使用し、ほんのりと飴色になっています。実は2代目で、初代は、新品よりも、飴色に変化したものを求めたいというお客様の元へ旅立って行ったそう。


    本当に大事なものは残っていくはず

    材料となるイタヤカエデは、山に精通した職人に依頼し、秋田県内の山から仕入れています。かつては山へ自ら材料を採りに行っていたそうですが、販売数が増えることに伴い、製品をつくることに専念するようになりました。

    「材料があるからこそ、編むことができる製品なので、お願いしている職人さんが山に行けなくなったら、私たちもつくれなくなってしまいます」と麻巨さん。

    松本家に育つイタヤカエデの木。それが所以で仙北市から依頼があり、約35年前にイタヤ細工の実演が始まったそう。松本家での実演は、父・清澄さんが始め、さまざまなつくり手が引き継ぎ、現在に至ります。

    祖父・昭二さんも父・清澄さんも、後継者の育成に尽力したこともありましたが、続かなかったと、技術を残していく難しさを麻巨さんと呉羽さんは話します。

    「山に入って、イタヤカエデを見つけることも、採った材を裂いて、製品として編める状態に整えることも、どれも難しい技術ですし、商売として成り立つかを考えると、続けていけないんですよね。編むことについても、同じ時間と手間をかけるならば、単価の高い山葡萄や胡桃をつくった方が利益率も高い。イタヤ細工をつくる人がどんどんいなくなってしまうのは必然のようにも思います」。

    裂いた状態で届いたイタヤカエデはカンナがけし、面取りをした後に、近しい幅のものを選んで編む作業へと進みます。材料の不足から、近年では機械挽きの製品にも挑戦していますが、木目や繊維に沿って微細に調整できる手挽きの方が丈夫で、安心してお客様に届けられると話します。

    「一度失われ、復活しようと試みる活動を他の工芸品でも見てきましたが、材料の確保が難しく、断念した事例もいくつか見てきました。けれども、本当に大事なものであれば、誰かが担っていくと思うんです」と麻巨さんと呉羽さん。

    民芸イタヤ工房が生み出してきた品々も、だからこそ多くの人に渡り、イタヤ細工の技術が今日まで継承されてきたとも言えます。

    郷土玩具として知られる「イタヤ馬」(1,100円)。左向きの馬は「左馬」と呼ばれ、「うま」を逆さまに読むと「舞う」となることから、縁起のいいモチーフとして知られています。

    「盛皿 鉄線編み」の「三色」は、父・清澄さんが、「花模様を出したい」と試行錯誤する中で偶然に生まれた幾何学模様。それからおよそ20年後、その話を聞いた麻巨さんが、「こうすれば花模様になる」と生み出したのが「朱」です。

    「盛皿 鉄線編み」(左上から時計回りに)「三色」(7,150円)、「朱」(6,600円)、「小」(5,940円)。

    「三色」、「朱」、「小」と、実はどれも編み方は同じ。1本1本、母・文子さんが手で染めるイタヤカエデをどこに入れるかで模様に違いが出ています。天ぷら、そば、素麺、枝豆やお菓子など、今現在もさまざまな用途に使える、丈夫な優れものです。
    家族4人で、日々、手作業でつくられる民芸イタヤ工房の貴重な品々。

    東北スタンダードマーケットでは、記事で紹介した「手提げかご」、「盛皿 鉄線編み」、「小文庫」、「イタヤ馬」のほか、「かごバッグ」、「丸かご」、「弁当箱」などを取り扱っています。イタヤカエデの枝を6等分した郷土玩具「イタヤ狐」も人気商品です。

    箸置きとしても使えるイタヤ狐(6個セット・1,100円)

    取材:佐藤春菜

      <民芸イタヤ工房>
    住所:秋田県仙北市角館町小人町4(松本家)
    TEL:0187-53-2609(民芸イタヤ工房)
    営業時間:4月中旬〜11月初旬 9:00〜16:00(松本家)
    定休日:不定休
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